まえがき
直木賞候補作、全部読みました。久しぶりにぶっ通しで読書しまくりました。
記事中、ネタバレはしていませんが、なんとなく予想できてしまうかもしれないので嫌なひとはここでそっ閉じしてください。
受賞できそうな順と、その理由
| 書名 | 作者 | 出版社 |
| 蜜蜂と遠雷 | 恩田陸 | 幻冬舎 |
| また、桜の国で | 須賀しのぶ | 祥伝社 |
| 夜行 | 森見登美彦 | 小学館 |
| 室町無頼 | 垣根涼介 | 新潮社 |
| 十二人の死にたい子どもたち | 冲方丁 | 文藝春秋 |
恩田陸は正直、これで受賞しなかったら何を書いたら直木賞もらえるんだってくらい良かった。すでに5回もノミネートされているわけだし、ここらで獲っていいはず。というか獲ってほしい。
「また、桜の国で」はすごく重くて、正直好みではなかったけど文章の組み立てといい話の内容といい申し分ない。もしかしたらここはW受賞あるかな、という感じ。
「夜行」は個人的にはすごく好みだったけど、食い足りないと感じる人も多そう。直木賞かと言われると、うーん? さっきのニュースで本屋大賞にもノミネートされたと聞いたので、そっちのが向いてるかも。
「室町無頼」は、直木賞が大衆小説の賞としてもちょっと娯楽寄りかなあという印象。室町小説って聞いた覚えないし、歴史小説としての価値を加味されると分からないけど、まあなさそうかな。
「十二人の死にたい子どもたち」は、文藝春秋枠なのかなあ…。話としては面白かったけど、直木賞って言われるとピンとこない感じ。ノミネートも2回目だし、好きな人は好きみたいなので「天地明察」も読んでみようかな。
…とまあ、そんな予想としてはこんな感じです。
好みの順
| 書名 | 作者 | 出版社 | お気に入り度 |
| 蜜蜂と遠雷 | 恩田陸 | 幻冬舎 | ☆5 |
| 夜行 | 森見登美彦 | 小学館 | ☆4 |
| 十二人の死にたいどもたち | 冲方丁 | 文藝春秋 | ☆3.5 |
| また、桜の国で | 須賀しのぶ | 祥伝社 | ☆3 |
| 室町無頼 | 垣根涼介 | 新潮社 | ☆2 |
感想は次項から。
作品の感想(読んだ順)
「室町無頼」(垣根涼介/新潮社)
あらすじ(HPより引用)
応仁の乱前夜、富める者の勝手し放題でかつてなく飢える者に溢れ返った京の都。ならず者の頭目ながら骨皮道賢(ほねかわどうけん)は権力側に食い込んで市中警護役を任され、浮浪の徒・蓮田兵衛(はすだひょうえ)は、ひとり生き残った用心棒を兵法者に仕立てようとし、近江の古老に預けた。兵衛は飢民を糾合し、日本史に悪名を刻む企てを画策していた……。史実に基づく歴史巨篇。
http://www.shinchosha.co.jp/book/475006/
主人公は、ひとり生き残った用心棒の才蔵。道賢が押し込みの現場で命を助け、兵衛に預け、兵衛が自分の目的のために才蔵を一人前に育て、運命の日へ…というのが大雑把なあらすじ。いわゆるピカレスクものであると同時に、才蔵の成長物語ですね。
歴史小説ではあるんだけど、かなり読みやすい部類。最初から歴史小説の人ではないらしいので、そのせいかしら。はたまた室町時代というあまりなじみのない時代設定だったのが逆に良かったのかもしれない。
あまり華美な文章ではないけれど登場人物が皆魅力的で愛嬌のある人物として描かれていて、親しみが持てる。無茶苦茶な人ばっかり出てくるんだけどね。
時代背景が時代背景なので、みんな壮絶な過去を持っていて、そこも読みごたえがある。特にとある女性の生き様がすごい。
全体的には、そつなくまとまっていると思う。
それよりなによりこの小説は絶対にコミカライズ向きだと思う。ひとがサクサク死ぬのでジャンプでは難しいかもしれないから、ヤンジャンあたりで。文庫化した暁には全国の司書さんには、是非ともこっそりYA棚にさしておいて欲しい一冊。
「夜行」(森見登美彦/小学館)
あらすじ(HPより引用)
私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」
https://www.shogakukan.co.jp/books/09386456
エッシャーの「昼と夜」という作品を彷彿とさせる作品。→エッシャー「昼と夜」google画像検索
不思議な読後感。恩田陸っぽさを感じる。はっきり言うと、「三月は深き紅の淵を」(講談社)を思い出した。
スッキリした解決を好むひとにはおすすめできないが、面白い。全体的にあっさりした文体の中に、うまく「夜」の不気味さが漂っているいい文章。
読みごたえがあるというタイプではないけれど、さらっと読めていい。が、ひとによっては食い足りないと感じるかなっていう塩梅。
はっきりとした解が示されるわけではないので、そういうのが苦手なひとにはお勧めできないけど、面白かった。
「夜行」という絵を媒介にした世界の構築は見事で、最終章で思わずうなってしまった。なるほど、そうきたかと。
今回の候補作の中では、最も一般受けするんじゃないかな。
「また、桜の国で」(須賀しのぶ/祥伝社)
あらすじ(HPより引用)
第二次世界大戦勃発。
ナチス・ドイツに蹂躙されるポーランドで、
〝真実〟を見た日本人外務書記生はいかなる〝道〟を選ぶのか?世界を覆うまやかしに惑わされることなく、常に真実と共にあれ。
http://www.shodensha.co.jp/matasakuranokunide/
一九三八年十月一日、外務書記生の棚倉慎はワルシャワの在ポーランド日本大使館に着任した。ロシア人の父を持つ彼には、シベリアで保護され来日したポーランド人孤児の一人、カミルとの思い出があった。 先の大戦から僅か二十年、世界が平和を渇望する中、ヒトラー率いるナチス・ドイツは周辺国への野心を露わにし始め、緊張が高まっていた。 慎は祖国に帰った孤児たちが作った極東青年会と協力し、戦争回避に向け奔走、やがてアメリカ人記者レイと知り合う。だが、遂にドイツがポーランドに侵攻、戦争が勃発すると、慎は〝一人の人間として〟生きる決意を固めてゆくが……
戦争ものである。全編を通して、戦争の重苦しい雰囲気が漂う。もちろん明るいエピソードもあるのだけれど、読んでいてとてもしんどい話だと感じてしまうのは、私たちがその結果を知っているからだろうか。
ともかく、舞台が舞台であり、主人公にはユダヤ系の友人知人が多くいる。その中で何を見、何を考え、どう選択していくのか…なまじフィクションなだけに何もかもが心に重くのしかかってくる。えぐられる。
お話の中で「知っている人」に、誰もが知っているあの残虐行為が行われる。昔読んだ「夜と霧」(V.E.フランクル/みすず書房)の内容が頭をちらつく。とてもつらい。
話の内容も文章の作りも表現も、構成も申し分ないんだけど、正直好みの方向の救いのなさではないなあって感じです。
気力体力が充実しているときに読まないとごっそり持っていかれる作品。
「十二人の死にたい子どもたち」(冲方丁/文藝春秋)
あらすじ(HPより引用)
廃病院に集結した子どもたちの前に現れたのは――?
廃業した病院にやってくる子どもたち。目的はみんなで集団自殺すること。しかし、十二人が集った部屋のベッドにはすでに一人の少年が。彼は一体誰なのか、この中の誰かが彼を殺したのではないか、こんな状況のまま計画を実行してもいいのか……。
性格も価値観も死にたい理由もそれぞれ違う、初対面の十二人の少年少女たちが、不測の事態を前に、議論し、互いを観察し、状況から謎を推理する。初めて人とぶつかり、対話していくなかで彼らが出す結論とは。そして、この集いの本当の目的とは——。
http://hon.bunshun.jp/sp/12nin
HPを見に行ったら、12人の子供たちのイラストがあって、あんまり文藝春秋っぽくないなーとなんとなく。
それはともかく、話の内容はいたってオーソドックスなミステリ。分類するなら準密室ものですね。
12人が廃病院の中を見回って手掛かりを探しつつ、議論を進める。その中で各自の自殺動機などが語られ…という、まあ言ってみれば予定調和。
ハッキリ言って評価はまっぷたつになると思う。アッと驚く奇想天外さはないけれど、よいミステリ。私は面白かった。推理の過程をとっくりと味わうことができる。
少年少女の死を扱うには軽すぎる気がしないでもないけれど、あくまでも主眼はそこではなく、ミステリ部分にある感じ。
今回の候補作の中では、いちばんとっつきやすいと思う。でもなんだか、このひとのポテンシャルはこんなもんじゃなさそうだぞ、という印象もありつつ。
「蜜蜂と遠雷」(恩田陸/幻冬舎)
あらすじ(HPより引用)
俺はまだ、神に愛されているだろうか?
ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、
そして音楽を描き切った青春群像小説。
著者渾身、文句なしの最高傑作!3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。
http://www.gentosha.co.jp/book/b10300.html
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。
第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?
改めてあらすじを見て、こんな話だったっけ? と首を傾げたくなった。
圧倒的な読後感を引きずったままなので、やけにあっさりして見える。
恩田陸は(私の中で)当たり外れが大きい印象があるんだけど、これは間違いなく当たり。それも大当たり。
コンクールを巡る話で、様々な立場の関係者視点から話が進行していく。構成は、正統派ド直球。「ドミノ」や「Q&A」の変則的な構成も好きだけれど、恩田陸はやっぱり直球が安定してすごいと思わせるさすがの筆致。
恩田作品はたまに終盤までの盛り上がりに対してオチが弱かったりぶっ飛んでいたりすることがあるが、この作品はそんなこともなく安心して読める。
舞台はピアノコンクール。一次予選から本選まで、各コンテスタントの演奏する曲が、作者お得意の比喩表現でこれでもかこれでもか描かれている。
「素晴らしい演奏」を、これほどまでに執拗に描いた作品があっただろうかというレベル。圧巻の一言。
そしてそこまでみっちり描いていたにもかかわらず、最後の演奏者の演奏だけ描写がないのも心憎い。想像力が試される感覚。
…ただ、これも結構ひとを選ぶだろうなあとは思います。冗長で退屈と感じるひともいるかも。
それでも私は、この作品は恩田陸の持ち味がぎゅっと詰まった作品だと思うし、文句なしの最高傑作という惹句に偽りはないと思うのである。
そしてなんと、実際に作中で演奏された順番のプレイリストが公開されています。面白い試み。
https://www.gentosha.jp/series/mitsubachi/