まえがき
全部読んで予想しました。
記事中、明確なネタバレはしていませんが、本を読みなれている人は内容の予想がついてしまう表現があるかもしれないので、それがイヤな場合はそっとブラウザを閉じてください。
逆に、フワっとしたことしか言ってないじゃん、と物足りない方がいらしたらそれもごめんなさい。
後日作品別にネタバレありの記事を書く予定はあります。体調次第の予定は未定です。
※画像付きリンク以外の作品リンク先は、すべてAmazonになります。
とりあえず私の予想
今回はズバリ「スタッフロール」(深緑野分/文藝春秋)ではないかと予想します。素直に面白かった。
賞レース的側面から考えてもノミネートは3回目だし、出版社も文藝春秋は1年空いてるし、良いんでないかと。
ただし、2022年上半期は芥川賞と合わせて9名が女性ということなので、バランスを取るために「爆弾」(呉勝浩/講談社)が絡んでくる可能性も微レ存。呉氏もノミネート3回目ですし。
とはいえ「スタッフロール」の面白さは無視できないので、あってW受賞かな、といったところ。
感覚的には「スタッフロール」が直木賞、「爆弾」が本屋大賞という形に収まるのではないか? という感じ。
まー、個人的には作品が面白ければいいのであって、そこに男女差を付けるのはナンセンスだと思いますけどもね。そもそも作家本人のジェンダーが分からんし、ノミネート時に操作する余地はあったのにしなかったんだからその辺は真摯であってほしい。
各作品等概略・感想
「絞め殺しの樹」(河崎秋子/小学館)
あなたは、哀れでも可哀相でもないんですよ
北海道根室で生まれ、新潟で育ったミサエは、両親の顔を知らない。昭和十年、十歳で元屯田兵の吉岡家に引き取られる形で根室に舞い戻ったミサエは、ボロ雑巾のようにこき使われた。しかし、吉岡家出入りの薬売りに見込まれて、札幌の薬問屋で奉公することに。戦後、ミサエは保健婦となり、再び根室に暮らすようになる。幸せとは言えない結婚生活、そして長女の幼すぎる死。数々の苦難に遭いながら、ひっそりと生を全うしたミサエは幸せだったのか。養子に出された息子の雄介は、ミサエの人生の道のりを辿ろうとする。数々の文学賞に輝いた俊英が圧倒的筆力で贈る、北の女の一代記。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09386626
第一部の主人公がミサエで430ページ中279ページ、残りが第二部で息子の雄介が主人公。
あらすじでは雄介がミサエの足跡を辿る話がメインに見えますが、逆です。我々はミサエの人生をどっぷり見せられた上で、生みの母にさほど関心を見せない雄介にやきもきしながら第二部を読むことになります。
勘のいい読者はかなり早いうちから事実に辿り着くことができると思いますが、そこは主題であって主題ではない。「気づいたからといってどうなるのか」という閉鎖的な人間関係の柵、虐げられた過去を持つが故の流されやすさと芯の強さが共存し、その土地から離れることができなかったミサエの強さと弱さ。それが生んだ悲劇をどう受け止めるべきなのか。
ミサエは幸せだったのか? そうやすやすと答えが出そうにない、重厚感溢れる物語。
◆作者受賞歴◆
「北夷風人」(「北の文学2011」収録)第45回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)佳作
「東陬遺事」(「北の文学2012」収録)第46回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)
「颶風の王」三浦綾子文学賞、JRA賞馬事文化賞
「肉弾」第21回大藪春彦賞
「土に贖う」第39回新田次郎文学賞、2020年度釧新郷土芸術賞受賞。第33回三島由紀夫賞候補。
直木賞ノミネートは本作「絞め殺しの樹」が初。
「夜に星を放つ」(窪美澄/文藝春秋)
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。
コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163915418
「絞め殺しの樹」の後に読んでしまうと全体的に「些細ですね」となってしまう感受性に乏しい私。166回もそうでしたが、読む順番って本当に大事です。
逆に言うと感受性の豊かな方は面白く読めると思うし、個人的には十代に読んで欲しい一冊です。山田詠美さんとか、川上未映子さんとかの作品と同一ライン上にあるような。前回で言えば綾瀬まるさんのポジションでしょうか。はい、ぐだぐだ言ってるところからもわかるとおり、あまり強く印象に残った話がありません……。
紹介文では「人の心の揺らぎが輝きを放つ」とありますが、どちらかというと「ままならなさ」を強く感じる作品でした。
◆作者受賞歴◆
「ミクマリ」第8回R-18文学賞大賞
「ふがいない僕は空を見た」第24回山本周五郎賞
「晴天の迷いクジラ」第3回山田風太郎賞
「トリニティ」第36回織田作之助賞
過去の直木賞候補作は、第159回「じっと手を見る」、第161回「トリニティ」
ノミネートは本作「夜に星を放つ」で3回目。
「爆弾」(呉勝浩/講談社)
東京、炎上。正義は、守れるのか。
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000363042
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
純粋エンタメ枠。東京を舞台にした連続爆破事件。別件で逮捕された男が「霊感」と称して謎かけめいた話を始め、それが爆弾の在処と爆破時刻の予告だとわかる。
爆発を止めるため、ある所轄署内、取調室での攻防が始まる……といった内容。
さぞかし映像映えするだろうな、と思わせる作品。映画化待ってます。
ジャンルとしてはのらりくらり系犯人と頭脳は警官の知恵比べ系ですね。おもしろかった!
話の性質上警察署内、取調室が多くの場面を占めることになるのが惜しいところですが、間に差し込まれる爆弾を探す捜査員の奮闘や、一般人の反応も見ごたえあり。
ただ、ベテラン刑事が失脚した「スキャンダル」の内容はかなりキツイものがあるな、と。そうすることが必然とまでは言えないので、万人受けという意味で他の内容でもよかったんじゃないかなー。あれそもそも犯罪を扱うという不謹慎なフィクションの中でも、受け付けない人は受け付けないと思うんだよね……。
◆作者受賞歴◆
「道徳の時間」第61回江戸川乱歩賞
「白い衝動」第20回大藪春彦賞
「スワン」第41回吉川英治文学新人賞、第73回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞
咲くやこの花賞(文芸・その他部門)
過去の直木賞候補作は、第162回「スワン」、第165回「おれたちの歌をうたえ」
ノミネートは本作「爆弾」で3回目。
「女人入眼」(永井紗耶子/中央公論新社)
「大仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ」建久六年(1195年)。京の六条殿に仕える女房・周子は、宮中掌握の一手として、源頼朝と北条政子の娘・大姫を入内させるという命を受けて鎌倉へ入る。気鬱の病を抱え、繊細な心を持つ大姫と、大きな野望を抱き、それゆえ娘への強い圧力となる政子。二人のことを探る周子が辿り着いた、母子の間に横たわる悲しき過去とは――。「鎌倉幕府最大の失策」と呼ばれる謎多き事件・大姫入内。その背後には、政治の実権をめぐる女たちの戦いと、わかり合えない母と娘の物語があった。
https://www.chuko.co.jp/tanko/2022/04/005522.html
今回の歴史枠。今をときめく鎌倉殿な時代のものを選んだのは偶然なのかどうか。
「鎌倉幕府最大の失策」とか言われてたのか。知らんかったわ。くらいの知識レベルでも普通に読めました。大河見てる人は脳内でキャスティングして読むときっととても楽しいと思う。
大姫入内問題を母政子との親子関係を切り口として、大姫から見た政子をいわゆる「毒親」として描いている。大姫の入内にこだわる政子は、さながら子どもの意志を無視して熱心にお受験に取り組む教育ママ。この件については頼朝さえも口をはさむことができず、かつ大姫自身も母に逆らおうものなら周囲の人間に害が及ぶことを理解して心を閉ざしている八方ふさがり。そんな中で周子はどう振舞うのか? 大姫の入内は成るのか? そんな物語。
その最後、周子に対して大姫の示した万葉集作者不詳の歌に本当に心が締め付けられます。優しい子であるがゆえに政子に抗しきれなかった悲劇。派手さはありませんが、良い作品でした。
◆作者受賞歴◆
「絡繰り心中 部屋住み遠山金四郎」(改題「恋の手本となりにけり」)第11回小学館文庫小説賞
「商う狼」第40回新田次郎文学賞
直木賞ノミネートは本作「女人入眼」が初。
「スタッフロール」(深緑野分/文藝春秋)
戦後ハリウッドの映画界でもがき、爪痕を残そうと奮闘した特殊造形師・マチルダ。
脚光を浴びながら、自身の才能を信じ切れず葛藤する、現代ロンドンのCGクリエイター・ヴィヴィアン。
CGの嵐が吹き荒れるなか、映画に魅せられた2人の魂が、時を越えて共鳴する。特殊効果の“魔法”によって、“夢”を生み出すことに人生を賭した2人の女性クリエイター。その愛と真実の物語。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163915180
第一部は1960~70年代の特殊造形師マチルダが、第二部は2017年のCGクリエイター、ヴィヴィアンが主役。第一部の終わりでマチルダは引退しており、第二部では伝説的な特殊造形師として語られている。ヴィヴィアンもマチルダのファンのひとり。この話の主題は映画の特殊技術について造形にまつわる苦悩と執着、のようなものと、スタッフロールにクレジットされることの意義を描いている。特にマチルダが押し寄せるCGの波に恐れながらも特殊造形にこだわり抜き、作り抜いたシーンから、CGクリエイターであるヴィヴィアンへと、時代とともに主人公と特殊技術が移り変わるところがたまらない。そして二人の運命が交わり、もつれにもつれた人間関係を経ての、さながら映画のようなラストシーン。
映画に関する教養はまったくない状態で読んだが、それでも楽しめた(観ていた方がいいのは間違いないし、これから作中に出てきた作品だけでもとりあえず観てみようと思っている)
◆作者受賞歴◆
「オーブランの少女」東京創元社主催の第7回ミステリーズ!新人賞
第66回神奈川文化賞未来賞(奨励賞)
「ベルリンは晴れているか」第9回Twitter文学賞国内編第1位
過去の直木賞候補作は、第154回「戦場のコックたち」、第160回「ベルリンは晴れているか」
ノミネートは本作「スタッフロール」で3回目。
まとめ
ノミネート作品のジャンル自体はおおむねいつも通りのラインナップ。
◆「絞め殺しの樹」はなんかもうホント読んでてしんどくてしんどくてなんでこんなつらい目に遭わないといけないの、となるし、内的/外的両方の要因が重なってどうにもなくなってて、十二国記北海道国かな? みたいな。連続テレビ小説向きかもしれない。
◆「夜に星を放つ」、現代日本が舞台の心の動きをキラキラした感じに描くタイプの短編集なので、これはなんかHuluとかで独占映像化しそう。「ままならなさ」を描いたように感じたわけだけど、全編そんな感じだったのでもう少しメリハリを付けたらよかったかもなー。
◆エンタメとしては断然「爆弾」、これ以外にない。アレなシーンをうまいことどうにかした上で、何らかの形で映像化はするんじゃないかな。エンタメ寄りという立場で見れば警察小説としてもなかなか良くて、組織に属して動くままならなさとか、まあ色々素敵なシーンがありました。本屋大賞、かなり有力だと思います。
◆歴史枠の「女人入眼」が大河とばっちり時代が合っているのでゲタ履かせてもらえそうだけど、第166回でW受賞の2作ともが歴史小説なので結局プラマイゼロかなぁという印象。内容は面白かったけども。大姫様がけなげでね……。
◆そして「スタッフロール」は最もバランス感覚に優れた作品。職業人として生きる楽しさと苦しさ、人生の喜びとままならなさ、(第一部において)女性として働く厳しさが、映画という題材を通じて熱く、しかし押しつけがましく無く描かれている。この作品をぜひ映画で見たいと思わされた。
と、いうことで。細かい予想としては
「スタッフロール」>「爆弾」>「女人入眼」>「絞め殺しの樹」>「夜に星を放つ」
という順番になります。当ったるっかな~。




